ちびろくとおっぱいその４　おっぱいノイローゼのこと

ちびろくとおっぱい

おっぱいノイローゼのこと

		おっぱいノイローゼのこと
		ちびろく３ヶ月　[2000/02/21]

ふうぅ。
おっぱいノイローゼから、とりあえず脱出することができた。
おっぱいは、溢れるほどに出ているわけではないが、ようやくわたしの精神状態は平穏に戻ったようだ。

先週はかなりキテいたのだ。
自分でも、わかっているのにどうしようもない、おっぱいノイローゼ。
たぶんガンガンおっぱいが出ている人に、この気持ちはゼッタイにわからないだろう。
出ないおっぱいが情けなくて、悔しくて、自分でもどうしようもないのだ。

いつのまにか、目的が「母乳で育てる」から「母乳を出す」ということにすりかわり、
何をしてでも、どんな手を使ってでも、とにかく母乳を出さなくちゃ！
と、寝ても覚めても、思い詰めるのだ。

授乳のたびに、ちびろくの体重を量り、飲んだ量をチェックする。
期待するほど出ていなかったら、心底がっくり。
そして、上手に飲めない我が子にも腹が立つのだ。
夫にも、随分当たり散らした。（ゴメン）

「だっておっぱい出ないんだもん！！キイイーッッ！」
そんなストレスがまた母乳分泌の妨げになると、知っているだけに、余計焦る。
「赤ちゃんに吸ってもらうことで、母乳を出すホルモンの分泌が活性化される」ことを信じて授乳するのだが、哺乳壜に慣れてしまったちびろくの口は、唇を丸めて飲む、哺乳壜の飲むのに適したかたちになってしまっている。
それを矯正するために、唇を指で無理矢理まくり上げながら飲ませるのだ。
当然イヤイヤをするちびろく。
「この飲み方じゃ、だめなの！言うこと、ききなさい！！」
怒鳴っても、０歳児に通じるわけはない。

１００ｃｃにも満たない量を飲むのに１時間以上かかり、１回の授乳を終わらせるころには、わたしもちびもぐったりだ。

それから、今度は手で搾乳する。
３０分かけて搾ったほんの５ｃｃほどのおっぱいを、湯煎で温め、今度は匙で飲ませるのだ。
５０ｃｃしか出ていないときの、５ｃｃは貴重である。
こぼされると本気でムカつく。
拾ってかき集め、口に突っ込みたいくらい。

出産前は、ちっとも母乳にこだわっていなかったくせに、出なくなると悔しくて、何が何でも母乳で育てたいと思い詰めてしまった。
出の悪くなったおっぱいを復活させるには、ひたすら授乳を繰り返すしかない。
赤ん坊が哺乳壜に慣れてしまうと、おっぱいを吸わなくなってしまうので、ミルクは飲ませるわけにはいかないのだ。
すくすくと大きくなって欲しいという願いとは裏腹に、出ないおっぱいをくわえさせる毎日。
そこまでして母乳にこだわる意味があるのかと思う。
それなのに、どこでやめればいいのか、わからなくなってしまうのだ。
もしかしたら今朝は出るかもしれない、と何の根拠もなくても夢見てしまう。
今日こそは、今度の授乳こそは、おっぱいがピューピュー出てくれるのではないかと、何度裏切られてもその次に期待を寄せる。

ちびの機嫌もいいし、もうすこしおっぱいだけで頑張れるかもしれない。
もうちょっとがんばれば、出るようになるかもしれない。
そう考えると、ミルクは足せない。

しかしその一方で、ちびろくが心配でもあるのだ。
おなかがすいて泣いているのはかわいそうだし、体重が増えなくても困る。
もう母乳は諦めて、ミルクを足すべきなのか。
だけど絶対に母乳しか飲ませたくないのーーー！

結局、そんな風に追いつめられていた時、姉の言葉に救われた。
「そうだよねぇ。母乳で育てたいって思うよねぇ。わたしも、悩んだよ。
おっぱいを搾れば出がよくなるって聞いて、おっぱいに青痣がつくまで搾乳したわ」

そんな舞台裏、知らなかった。
それまでは、
「おっぱいに、こだわらなくてもいいじゃない」
と軽く言う彼女に、
「混合で育てたあんたに、わたしの気持ちがわかるものか」
と、腹立たしく思っていたのだ。
姉がそんなに悩んでいたなんて、思いもしなかった。
桶谷式母乳相談所を紹介してくれた友だちも、母乳で育てたくてそこへ通ったのだ。
みんな、母乳で育てたいと考えて、手を尽くした挙げ句のミルクなんだ。
わたしだけが悩んでいるわけではなかった。

わたしも、がんばってみよう。
わたしにはまだ、「おっぱいだけで育てたい」魔物が憑いているのだ。
ちびろくはかわいそうだけど、うちの子だから仕方ない。
わたしの気の済むまでやってみたっていいじゃないか。
きっと、本当にどうしようもなくなったら、諦めることができるだろう。
もう無理だと思えば、ミルクを飲ませればすむことだし、その前におっぱいが出るようになれば、ラッキーだ。

それでもだめだったときは。
そのときは、きっと笑顔で「ミルクでもいいじゃない」と言えるようになっているだろう。
気の済むまでがんばった挙げ句のミルクなら、きっと言えるはず。

もうすこしだけ。
わがままなかーちゃんで、ごめんね。
ちびろく、一緒にがんばろうね。